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原田知世・完結編〜特選・日本の女性ヴォーカル編

毎日憂鬱な梅雨が明ければ、いよいよ酷暑の夏本番。こんな季節には清々しくて透明感のある音楽、美しい女性ヴォーカルなど聴いて過ごしたいもの。日本の音楽ファンの間でも例えば英国プログレ・フォークロックの三美神やイタリアのDonella Del MonacoスペインのMaria Del Mar Bonetなど、そのお国柄、異国情緒に溢れた女性ヴォーカルが人気を集めてきましたが、最近では同様に海外で日本の女性ヴォーカルが聴かれるケースが増えているようです。日本には昔から女性ヴォーカルのファンが多く存在し、そうしたニーズに応えるべくジャンルを問わず質の高いヴォーカル作品が作られてきました。特に70年代後半以降は世界的に見て日本のレコード製造技術は群を抜いており高音質のLPで美しい歌声を堪能出来る点は見逃せません。CDの音がどんなに良くなろうともヴォーカルの再現は容易では無く、LPで、カートリッジやシステムとの相性を確かめながら、良く調整された装置で聴く女性ヴォーカルは鳥肌が立つ程、美しいものです。ここでは、そんな日本の女性ヴォーカルの中から、この夏を快適に過ごせるような優れたアルバムをい
くつかご案内していきたいと思います。まずは、前回紹介仕切れなかった原田知世のLP時代後期の三枚とベスト盤から。
☆『next door』
次作程ではないが曲によりユーロ調のロックテイストを強めていった作品。原田知世の声質の美点は透明感があり圧倒的な通りの良さを持っていることだろう。その為、シャウトすることもなくクールに落ち着いて歌っても派手なアレンジにかき消されることは無い。日本の女性ロック・ヴォーカルの多くはソウルフルに叫ぶか、あるいはパワーポップと開き直ってgirlyにコケティッシュに歌うタイプであるのに対し浜崎あゆみと共に白いロックをシリアスに歌う数少ないJ-ROCKシンガーである。
☆『soshite』
基本的にビートの効いた北欧風ポンプ・ロックにクールなヴォーカルが被さる。B㈪〜㈭の流れは完成度高い。然しこのアルバムの白眉はボーナス12inに収められた「雨のプラネタリウム」別ver.だろう。完璧なプログレッシヴ・ロックに仕上がっている。12EPの音質が良いことは言うまでもない。
☆☆☆『schmatz』
ロンドンでマスタリング、カッティングを行い、より硬質なロック・サウンドに乗せて、しっかりとヴォーカルの存在感を出している。完全にアイドル路線から脱却しており歌唱表現の幅も広がっている。B-㈬の伸びやかな歌声、「彼と彼女のソネット」でキーボードと奏でるハーモニーは神々しいまでに美しい。
☆☆☆『from T』
新録2曲、新曲1曲含むベスト。シングル曲は何れも出来が良くvarietyに富んだ良質のヴォーカル・アルバムとして何時の間にか惹き込まれ心地良く芯まで癒されていく内容。新曲「ブーケの冬」の出来がまた良い。名曲「彼と彼女のソネット」がB面冒頭に配置されレンジが広く一層美しい音で聴ける。
この後90年代以降の原田知世作品のqualityの高さは広く知られる処ですが、特に夏を快適に、ということであればゴンチチとのコラボで瑞々しいアコースティックギターに透明度の高いヴォーカルが浮かぶ究極の癒し系アルバム『summer breeze』、落ち着いた柔らかい空間を淡々と紡いでいく最新作『music & me』は絶対のお薦め。7/2発売の高橋幸宏らと結成した新バンドpupaのアルバムも期待を裏切られることは無いでしょう。
ところで、80年代後半になりますと日本のLP製造技術は頂点を迎えており、高音質化技術の確立していない当時のCDとは音質に雲泥の開きがあり、当時のものをCDで聴いてLPと同様の感動が得られることは絶対にありません。この当時の音源で未だCDでしか聴いたことがないというタイトルがありましたら必ずLPで聴き直してみることをお勧めします。この時期にはCD化の波に埋もれ忘れかけられた名盤も多く存在します。
☆☆五輪真弓『LIVE wintry streets』
73年12月に録音された五輪真弓のライヴ。80年の大ヒット『恋人よ』では完璧な歌唱力を見せつけているが、この頃の彼女の歌唱にはまだ初々しさが残る。日本では妖怪人間ベラと呼ばれてしまったがはっきりした目鼻立ちが外国人には受けるようで海外では歌の上手い美貌のシンガーとしてユーミンや中島みゆきよりも高い評価と人気を得ている。歌手としての才能はその二人に対し圧倒的に勝っており、全てのアルバムが優れたヴォーカル作品として輝きを放っている。
☆やまがたすみこ『summer shade』
透明感溢れる歌声で人気が再燃中の歌謡フォークシンガー76年のアルバム。シンプルなアレンジで低域のヴォリームを抑え中高域の音色の美しさを強調しており爽やかに聴かせる。
☆☆惣領智子『ナウ・アンド・ゼン』
現在は沖縄に在住し歌手活動を続ける惣領智子78年のベスト・アルバム。当時私生活でもパートナーであった惣領泰則による繊細できめ細やかなアレンジに、やはり繊細でやさしく時に伸びのあるヴォーカルが心地良く溶け込む。「やさしく愛して」では小鳥が歌う瑞々しい田園の情景を美しく描き出している。
☆☆☆☆久保田早紀『saudade』
キリスト教音楽家久米沙百合の久保田早紀時代80年の作。A面はポルトガルで現地ミュージシャンを起用した録音。何処までも柔らかい音色を紡ぎ出しメランコリックな響きをたっぷりと歌うギターラ・ポルチュゲーサ、ヴィオラをバックに澄み切った美しい声で歌われる「異邦人」には神秘性が宿り思わずも涙が。B面のアレンジも検討しているのだが所詮ニューミュージックであり完全な蛇足。A面が余りにも素晴らしい。心に響き祈り続ける音楽。
◇ナチコ『薬屋の娘/Nachiko-1st』
プログレテイストの作品として昔から知られた舘岡奈智子80年のファースト。13分に及ぶ大曲「水の炎」ではドラマティックな盛り上がりを見せる。
☆白井貴子『I love love』
NHK番組のリポーター等を務め近年クレイジー・ボーイズを再結成し活動中の白井貴子ソロ時代82年のセカンドアルバム。佐野元春の「someday」のカヴァーを始め所謂シティー・ポップスでアイドル歌謡とは一線を画した内容で歌も上手いが、予想外に歌声は可愛い。後に結成するクレイジー・ボーイズはロックバンドとされるが、ハードな路線ではなく同様に可愛いらしいポップなヴォーカルを聴かせる。
◇山下久美子『抱きしめてオンリィ・ユー』
ライヴの女王と言われたイメージからロック色の強さを期待すると完全な肩透かしを食らう。初期作品は何れもロックンロール調の曲を当時流行のシティー・ポップスに仕立てハスキーでキュートなヴォーカルを乗せる。時に小悪魔的。50'S的な懐かしい曲調が独自のいなたい世界を作っている。82年作。次作『baby baby』は少しNW調になる。
☆山崎ハコ『てっせんの花』
尺八を想わせるフルート、マンドリン、オカリナ等アコースティック楽器を効果的に配しオリエンタルなムードを醸し出しつつ、演歌とはまた一つ違った情念の世界を作り出している。今年待望の新曲「BEETLE」も出た山崎ハコ84年の作品。
☆☆☆少女隊『untouchable』
86年作。分厚い北欧風ポンプサウンドをambienceなコーラスが包む。アッパーなガールズ・ポップだが浮ついた部分は皆無。地に足が着いている。麗子がソロをとるA-㈪ウィスパーヴォイスの美しさは筆舌に尽くし難い。奥行きと天井方向に大きく伸びたステレオ感。中低域のしっかり感。モノトーンだが豊かな音色。丁寧に音楽を作り込んでいるのが誰にでもわかる。ハイエンド・オーディオで音量を上げて聴く価値がある。正に90年代以降のJ-popの教科書となったサウンドだが音楽的に少女隊を超えたモノはその後現れていない。アジアツアーを成功させJ-popが海外へ進出する基礎を創った。少女隊のJP-Originalは数多く海外へ流出しており初期タイトルのCDに5桁のプレミアがついているのは周知の通り。
◇冴木杏奈『tango primavera』
世界的な活躍をしているタンゴ歌手冴木杏奈87年のデビュー作。全楽曲日本人ライターによるもので、それまでにも日本によくあった歌謡タンゴの世界。
☆☆風見律子『nouvelles』
透明感ある心地良いヴォーカルを聴かせてくれる風見律子87年作。中央アジアの高原をイメージさせる爽快なフュージョンポップ。
☆☆☆☆浅川マキ『灯ともし頃』
アンダーグラウンドなジャズ、ロック、アヴァンギャルドな音楽を常に一流のメンツを揃えてずっと進化し続ける作品を残している浅川マキ。特に80年代レコードの売れない時代に年に1〜2枚ペースで量産した傑作群は採算が合っていただろうか。良い音楽を世に送り出したいという日本のレコード会社として最後の“粋”を感じる。76年の本作では白井幹夫、坂本龍一、吉田建、つのだ☆ひろ、近藤俊則ら気鋭の演奏陣をバックに夕暮れの情景をしっとりと歌う。冬に録られたアルバムだが夏の夜を沁み沁み過ごすにはうってつけだ。非黒人で然も日本語で、こんなにブルースを歌える人はいない。或る夜、グラス片手にこんなレコードを聴きながら、苦くて切ない記憶を思い出してみるなんて…きっと悪くはない。一人の寂しい夜、マキの歌声は何よりやさしい。
☆☆☆☆カルメンマキ&OZ『㈽』
日本のロックヴォーカリストとして未だに頂点に君臨し他の追随を許さないマキの素晴らしいヴォーカルをLPで堪能したいなら間違いなく77年のこのアルバムだろう。ロックを歌うとはどういう事か?本物とは何か?を近年のフェイクのモノしか知らない日本の若者にこそよく聴いてほしい。マキOZの作品としては曇った夏の空を感じさせプログレ色も硬質感も若干後退しヴォーカルを聴かせるアレンジになってはいるが、それでも随所に聴くべきプレイが挿入される。暗鬱なメロトロンも聞き逃すことは出来ない。

夏の夜、柔らかい美声のカートリッジに付け替えて優しいフィーメルヴォーカルに身を委ねてみるのは如何でしょう。世界中から選りすぐりの女性ヴォーカルも併せて御案内しております。店頭にて是非、美貌のジャケットと美しい歌声をお確かめ下さい。

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2008年06月30日 20:20に投稿されたエントリーのページです。

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