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2008年04月 アーカイブ

2008年04月21日

PICK UP ARTIST〜Clark Hutchinson〜Upp

世界中のヒップでコアなプログレッシャーのハートを鷲掴みにして離さないClark Hutchinson及びその末裔Upp…衝撃の再結成映像がネット上を駆け巡り今、注目度赤丸急上昇中!!
…とは言え、そもそもヒップでありながらプログレッシャーでもあるというコアな音楽ファンがそう多くいるわけではない為、密かにアンダーグラウンドにて沸々と人気を沸騰させて来たAndy Clarkの作品群でありましたが、誰でも一度聴けば“?”二度聴いて“!???”三度聴くと“!!!×●△■◎※☆♪〜?〜!!!”となる音楽性が沈沈と浸透し登場から40年近くを経ていよいよ地上へ出て陽の目を見る時機を得たようです。
日本では何故だか天下のペンタングルの二大ギタリストを差し置いてヤードバーズの歴代三人のギタリストが、まるで英国には他のギタリストはいないかのように有名で人気がありますが…そのうちの一人ジェフ・ベックがプロデュースし、内容もベックファン好み且つ非常に充実した好盤であるUppのファーストも、さして話題にならず、海外では最も実験性が高く内容充実と注目を集めていたNovaレーベルも日本ではB級と切り捨てられ近年まで見過ごされていた感があり、世界中でNova盤のプレミアムが急上昇する今になってClark Hutchinsonのファースト『A=MH2』にclub music等にも注目してきた若いロックファンを中心に関心が集まりつつあります。
日本では、特にビートルズファンに多いのですがビートルズを愛するあまり他の音楽にもビートルズ的な音楽性を求める傾向をもつファンが多く見られ、一通り関連作品を聴いたあとは…オリジナルに似て且つオリジナルを超えるバンドというのは極めて稀ですから…他に聴くべきバンドが見つかるはずもなく、ビートルズだけを延々聴き続けている人達が多くいます。日本の音楽ファンは自分好みの音楽の世界に安住する事を好むようです。プログレッシャーと呼ばれる人達も次から次へと未知の音楽を追い求めているようでありながら、ふと気がつくとジェネシスやイエス、クリムゾンの面影を探し続けてばかりいるような気もします。
欧米ではプログレッシヴな音楽には共通した様式美ではなく、実験的で未知の領域に手探りで踏み込んでいくようなオリジナリティをより強く求める傾向があるようです。
Clark Hutchinson〜Uppの音楽が、良いか悪いか、好きか嫌いかを問わず、オリジナリティに溢れた絶対無比な独自性の高い個性的な音楽であることには、まず一定の評価と敬意を払う必要があります。
他には見られない独創的で異形の存在に対して日本人は先ず違和感を抱き受け入れを拒絶するか、重箱の隅をつつくような些細な他との共通点を見つけパクリと決めつけるような評価をしてしまうことがあります。例えばJ-popの音楽評論家という人々の傾向はとても面白いのですが、ユーミンや椎名林檎のように自分の手のひらの中で消化出来るわかりやすいモノに対しては高く評価しますが、手に負えない突き抜けた浅川マキや浜崎あゆみのような存在に対しては無視を決め込んだりします。
ありきたりな和風フォークソングを『これは素晴らしいロック、パンク!魂の叫び!!』などと信じ込まされ押し付けられている日本の若者は可哀想ですね。
私達は、ある程度良い音楽を探すなら日本語で書かれた音楽評を頼りにすることも可能ですが、本当に良い…優れた素晴らしい音楽を見つける為には辞書を片手に海外の音楽評を読むか、何より自分の耳で少しでも多くの未知の音楽を聴いてみる以外にありません。

Clark HutchinsonはマルチプレイヤーのAndy Clarkとクラシック音楽にも造詣の深いギタリストMick Hutchinsonを中心としたグループでDECCA NOVAから69年にデビューし70年と71年にDERAMから二枚のアルバムを発表しています。その後Hutchinsonが脱退しClarkはベースのAmazingとUppを結成、75年にEpicよりジェフ・ベックのプロデュースで再デビュー、翌年にもアルバムを発表しますが、その後制作に入った3rdアルバムは結局陽の目を見ず、2005年になってボーナストラックとしてCD化されています。Clark Hutchinsonとしては1st『A=MH2』以前にもお蔵入り作品があり90年代に『BLUES』というタイトルでアルバムが出ています。そして大変嬉しいことに2008年3月よりインターネット上に再結成したClark Hutchinsonの新曲!の映像が見られるようになっています。
Clark HutchinsonとUppの音楽性には隔たりがありますが、彼らはアルバム毎に大幅に音楽性を変貌させながら、然し根底には一定の連続性も感じとられます。3年のブランクを考慮すれば本人達にとっては案外自然な流れで変化していったのではないかと思います。
Clark Hutchinsonに対しては…人によってプログレッシヴロックであったりハードロックであったり或いは彼らはブルースバンドであったと評する人もいるように…ファースト『A=MH2』では様々な音楽をミクスチュアしながらアンダーグラウンドな雰囲気を醸し出し、そこにクラシックからの影響が色濃いスパニッシュギターが活躍、そして美しい響きを伴った耳当たりの良い木管と、やはりロマンティックで耳に心地良いよく歌うピアノが絡んで、時にボレロのリズムであったり、ネイティヴ・アメリカンの音楽であったり、インドへ行ってしまったりしながら、それでいて全体を中東の音楽のようなオリエンタルな質感が包み込み、全編ほぼインストゥルメンタルで確かにこの音楽はヒップであるという事以外全く何だかわからないうちに終わってしまう…。
その何だかわからなさを受容出来る暇な時間と探求心ある者だけに、繰り返し繰り返し聴き込んでいくと全く何も考えていないようで本当は緻密に構築された音楽の全貌が明らかになっていくことでしょう。こうした音楽の“形態”は3rd『Gestalt』になるといよいよ明確で、アンダーグラウンドでありヘヴィーなハードロックから明らかに独立して存在する流麗で独自の音色を紡ぐスパニッシュギター、やはり孤高を行く破天荒なヴォーカル、…曇天の空、雲の切れ間から差す溢れる光のシャワーのようなEnchantedな歌うサキソフォーンが奏でるメランコリックなtheme、全編に漂うアンビエントな浮遊感… ともすると無意味な音の羅列を伴う凡庸なハードロックとして聞き流してしまうかもしれないところですが、きっと英国の霧深い森の奥深く…あの、宮殿の重い扉を開けて未知なる暗黒の世界へと手探りで入って行った音楽の子供達なら、必ず、その素晴らしさがわかることでしょう。それはブレーメンの音楽隊の様にプログレッシヴの子供達の心を捕らえて離さない音楽の魔法…。
その魔力は後継プロジェクトであるUppへと確実に受け継がれています。75年の1stはジェフ・ベックのプロデュースによるフュージョン・ファンクでClarkのソウルフルなヴォーカルは好き嫌いの別れるところでしょうがベック印の一流のロックアルバムに仕上がっており、幅広く多くの音楽ファンにアピールする内容となっています。そして、やはり良く聴き込んでいくと、この人達特有の緻密な構造美が露わになることでしょう。
翌76年の2nd『this way』では、よりバラエティーに富んだ内容となりプログレッシヴ・ファンク・ブルースからフュージョン系のインスト・ナンバーまで再びジェフ・ベックを客演に迎えながら聴き応えのある作品に仕上がっています。
アルバム毎に異なる音楽性…全く我が道を往く音楽の様で実は時代の流行を本人達は強く意識して楽曲に取り入れていた故なのでしょうが、思いつくままに様々なアイディアをギュウギュウに詰め込んだ結果、すっかり時の流れから切り離された普遍性の強い独創的な音楽になってしまったのでしょうか。
然し、特にHutchinsonの奔放なギター・プレイが鍵となるClark Hutchinsonの作品群のいずれかは、決して万人にアピールするものではないですが、何人かの音楽ファンにとっては、音楽の世界観を変えてしまうような衝撃的な作用をもたらす程の唯一無比の音楽力を秘めた作品であると言ってよいと思います。

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