« 2008年02月 | メイン | 2008年04月 »

2008年03月 アーカイブ

2008年03月26日

オリジナルファーストプレスの魅力 - 当店お客様よりの投稿 -

21世紀を迎えたあたりから本格化したプログレッシヴロックの再発ブームもデジタルリマスターによる紙ジャケットCDがほぼ一通り出尽くし(権利の問題からか国内盤がなかなか出ないモノも未だ未だ有りますが…)メーカーも“でかジャケCD”や待望のリマスター重量盤によるLP復刻(欧州のメーカーは紙ジャケよりも力を入れていますね)、新素材の高音質CD等の売れ行きやプログレッシャーの財布の中身を探りつつ音楽配信時代を迎えようという所…。
オリジナルLPも既に30年40年を経て状態の良いモノが減ってきましたからLP再発というのは素直に嬉しいものでレコードクリーニング技術の向上を考えれば、こうした復刻LPが…少なくともあと50年はアナログレコードで安心して聴いていける機会を保証してくれることでしょう。
然しオリジナルLPに永年親しんできたファンとしてはオリジナルLPと再発CD再発LPとの顕著な音の違い…音質の差は勿論ですが全体的な質感、音楽の印象さえ異なって聴こえることにお気づきであると思います。
特に欧州のリマスターCDでは、敢えて現代的な音に作り込み若い世代の人にも聴いてもらえるような傾向があり、それはそれでファンの裾野が広がり好ましいことではありますしLPとまた違った世界観が広がるのは楽しみでもあります。然し日本盤の中にはリマスターで音質は向上したものの、妙に明るく元気な音になってしまいオリジナルLPの深みや重みが消えてしまったようなものもあり、やはり本来の音楽性はオリジナルLPを聴かなければわからない作品が多いと思います。CDで何回か聴いたあとにオリジナルLPを手に入れて初めて本来の良さを知ることが出来た作品も多くあるのです。
日本でリアルタイムにプログレ、70年代ロックを聴いてきた人達の多くは最初に国内盤LPを手に入れた方も多いと思いますが…後になってオリジナルLPを入手して聴いてみると、国内盤と本国オリジナルとの音質の差に愕然とされた方も多いと思います。実際に本国オリジナルLPファーストプレスが今日のような人気を得るようになったのは、世界的に見ても日本の音楽ファン、永年日本盤LPを聴いてきた日本のジャズファン、ロックファンが日本盤と比べた、そのオリジナル…正真正銘の“本物”の素晴らしさに驚嘆し大挙して本国へ買い求めに押し寄せるようになってからの話のようです。
それでは国内盤LPとオリジナルLPとは何故そうした大きな違いが発生するのか?と云うと…マスターテープの世代は、例えば英国であれば本国は親テープ、メイン市場の米国には子テープ、日本には米国経由の孫テープというケースも…。特に英国のレコード会社はマスターを門外不出としデッカなどは米国市場を重視して現地での生産をせず英国工場のオリジナルプレスLPを米国に輸出、然し日本にはマスターコピーではなくメタルマザーを送ってきてプレスさせたと云います。
特に英国デッカが重視したのはマスターの音を生かすも殺すもカッティング次第であり、金属の溝に刻み込んで初めて音に生命力が漲るのだと云います。
LP先進国の英米ではカッティングエンジニアは花形でありデッカのマトリクス記号の末尾のイニシャルはカッティングエンジニアのものであるそうです。
カッティングエンジニアが実際にスタジオでアーティストの生の音に接したりアーティストの意見がカッティングに反映(そこまで拘った演奏家はそう多くなかったでしょうが…)される機会は本国でなければ限りなく可能性は低かったでしょう。
特に70年代初頭の日本では送られてきたマスターコピーを基に元々の音を想像しながらカッティングしていかなければなかったでしょうし、当時の日本ではロック=大音量、うるさい、明るく元気が良いというイメージが先ずあり、繊細であり沈鬱でもある曇天の黒い森の奥深くへと誘う英国ロックに造詣の深いエンジニア、レコード会社スタッフは多くなかったと思われます。
また、LPの登場は第二次大戦後間も無くのことであり敗戦国の独、伊や被害の甚大な仏に比べ英米のLP製造技術は抜きん出ておりそうしたアドバンテージの積み重ねが未だ未だ70年代初め頃には大きかったと思われます。
70年代以降米国のレコードはすっかり薄っぺらくなりオイルショックの影響で英国のLPも品質を落としましたが、初期の英米LPの品質、重量感、そして音質には音楽ファンを強く惹きつけるものがあります。
クラシックファンが好んで聴いているのは特に初期のモノフォニック時代のフルトウェングラーやアンセルメといった偉大な芸術家達が念願叶いやっと長時間録音が可能になった喜びを爆発させ次々と色彩豊かに音楽を奏でていった記録であり、ジャズファンが好むのは初期ステレオによって得られた音像と立体的な空間に繰り広げられた音楽家達のリアルな現実の濃密な魔術であり、そして…ロックファンが好んで聴いているのは、レコードが単に大衆に消費されていく商品としての価値に成り下がる直前、音楽を愛する人達の為だけに永遠に留められるべき芸術の記録としての用途において成熟期にあったアナログレコードの到達点に刻み込まれた、最も自由な形態の音楽表現として凝縮され爆発した、重力と金属が融合し暗澹たる沈痛の叫びと変転するリズム、メロトロンの空想世界とメランコリックな泣きの叙情…短命な超新星の出現と消滅を繰り返した、あの、プログレッシヴな音楽の時代の消えてしまいそうな痕跡の破片…。その記録。

オリジナルLPにはただ楽音が記録されているだけでは無く、その時代の空気や、あの時の若い心を動かした衝動、肌触りや香りも含めて…針を落とせば永遠にその時に留まっていられるかのような錯覚まで刻み込まれています。長い年月を経て磨り減ったジャケットのテクスチュアに時が流れた重みがあります。
また、LPにはCDと違いカートリッジやアクセサリーの交換によって、より自分好みの音を引き出せるという魅力があります。最終的な音決めは再生する人が行うことになります。アナログレコードを再生する一人一人がplayer(演奏者)であると云うことですね。
そうした部分も含めてアナログレコードの音は絶対的な要素と相対的な要素のバランスで最終的に決まります。その絶対的な(アーティストの意思が最も反映された)部分のウェイトが最も重みを持っているのが本国オリジナルファーストプレスであり絶対的な音の指標なのです。
勿論、例えば中低域にエナジーがあり中央に密度の高い音の塊感がある英国オリジナルに対し独盤はフラットなバランスで破綻なくどんなシステムにも馴染みやすいとか、米盤は少し大きめのスピーカーで鳴らすとステレオ感が出て空間が広がり音色も生っぽいとか、70年代後期以降の日本盤は下は出ないが高域は気持ち良く伸びるなど、それぞれ各国のレコードにはその国の文化や指向性にあった個性がありますし、セカンドプレス、セカンドラベル以降のLPでもファーストプレスと遜色ないレコードもありますから価格や自分の好みを考えれば各国盤や後期プレスのレコードにもCDで聴くより遥かに魅力的なレコードは多くあります。
然し、基本であり正真正銘本物であるのは本国オリジナルファーストプレスに尽きると思います。
特に当時の英国のレコードと云うと…ジャケットの手触り、紙質、コーティングの質感、良質なインナーバッグ、盤の厚み、適切な重量感、そして黒光りするレコードの深みのある艶は品質の高さを感じさせ所有する喜びを心地よく満たしてくれるものです。

About 2008年03月

2008年03月にブログ「EURAKEN's DAIRY」に投稿されたすべてのエントリーです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のアーカイブは2008年02月です。

次のアーカイブは2008年04月です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。