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PICK UP ARTIST アーカイブ

2008年04月21日

PICK UP ARTIST〜Clark Hutchinson〜Upp

世界中のヒップでコアなプログレッシャーのハートを鷲掴みにして離さないClark Hutchinson及びその末裔Upp…衝撃の再結成映像がネット上を駆け巡り今、注目度赤丸急上昇中!!
…とは言え、そもそもヒップでありながらプログレッシャーでもあるというコアな音楽ファンがそう多くいるわけではない為、密かにアンダーグラウンドにて沸々と人気を沸騰させて来たAndy Clarkの作品群でありましたが、誰でも一度聴けば“?”二度聴いて“!???”三度聴くと“!!!×●△■◎※☆♪〜?〜!!!”となる音楽性が沈沈と浸透し登場から40年近くを経ていよいよ地上へ出て陽の目を見る時機を得たようです。
日本では何故だか天下のペンタングルの二大ギタリストを差し置いてヤードバーズの歴代三人のギタリストが、まるで英国には他のギタリストはいないかのように有名で人気がありますが…そのうちの一人ジェフ・ベックがプロデュースし、内容もベックファン好み且つ非常に充実した好盤であるUppのファーストも、さして話題にならず、海外では最も実験性が高く内容充実と注目を集めていたNovaレーベルも日本ではB級と切り捨てられ近年まで見過ごされていた感があり、世界中でNova盤のプレミアムが急上昇する今になってClark Hutchinsonのファースト『A=MH2』にclub music等にも注目してきた若いロックファンを中心に関心が集まりつつあります。
日本では、特にビートルズファンに多いのですがビートルズを愛するあまり他の音楽にもビートルズ的な音楽性を求める傾向をもつファンが多く見られ、一通り関連作品を聴いたあとは…オリジナルに似て且つオリジナルを超えるバンドというのは極めて稀ですから…他に聴くべきバンドが見つかるはずもなく、ビートルズだけを延々聴き続けている人達が多くいます。日本の音楽ファンは自分好みの音楽の世界に安住する事を好むようです。プログレッシャーと呼ばれる人達も次から次へと未知の音楽を追い求めているようでありながら、ふと気がつくとジェネシスやイエス、クリムゾンの面影を探し続けてばかりいるような気もします。
欧米ではプログレッシヴな音楽には共通した様式美ではなく、実験的で未知の領域に手探りで踏み込んでいくようなオリジナリティをより強く求める傾向があるようです。
Clark Hutchinson〜Uppの音楽が、良いか悪いか、好きか嫌いかを問わず、オリジナリティに溢れた絶対無比な独自性の高い個性的な音楽であることには、まず一定の評価と敬意を払う必要があります。
他には見られない独創的で異形の存在に対して日本人は先ず違和感を抱き受け入れを拒絶するか、重箱の隅をつつくような些細な他との共通点を見つけパクリと決めつけるような評価をしてしまうことがあります。例えばJ-popの音楽評論家という人々の傾向はとても面白いのですが、ユーミンや椎名林檎のように自分の手のひらの中で消化出来るわかりやすいモノに対しては高く評価しますが、手に負えない突き抜けた浅川マキや浜崎あゆみのような存在に対しては無視を決め込んだりします。
ありきたりな和風フォークソングを『これは素晴らしいロック、パンク!魂の叫び!!』などと信じ込まされ押し付けられている日本の若者は可哀想ですね。
私達は、ある程度良い音楽を探すなら日本語で書かれた音楽評を頼りにすることも可能ですが、本当に良い…優れた素晴らしい音楽を見つける為には辞書を片手に海外の音楽評を読むか、何より自分の耳で少しでも多くの未知の音楽を聴いてみる以外にありません。

Clark HutchinsonはマルチプレイヤーのAndy Clarkとクラシック音楽にも造詣の深いギタリストMick Hutchinsonを中心としたグループでDECCA NOVAから69年にデビューし70年と71年にDERAMから二枚のアルバムを発表しています。その後Hutchinsonが脱退しClarkはベースのAmazingとUppを結成、75年にEpicよりジェフ・ベックのプロデュースで再デビュー、翌年にもアルバムを発表しますが、その後制作に入った3rdアルバムは結局陽の目を見ず、2005年になってボーナストラックとしてCD化されています。Clark Hutchinsonとしては1st『A=MH2』以前にもお蔵入り作品があり90年代に『BLUES』というタイトルでアルバムが出ています。そして大変嬉しいことに2008年3月よりインターネット上に再結成したClark Hutchinsonの新曲!の映像が見られるようになっています。
Clark HutchinsonとUppの音楽性には隔たりがありますが、彼らはアルバム毎に大幅に音楽性を変貌させながら、然し根底には一定の連続性も感じとられます。3年のブランクを考慮すれば本人達にとっては案外自然な流れで変化していったのではないかと思います。
Clark Hutchinsonに対しては…人によってプログレッシヴロックであったりハードロックであったり或いは彼らはブルースバンドであったと評する人もいるように…ファースト『A=MH2』では様々な音楽をミクスチュアしながらアンダーグラウンドな雰囲気を醸し出し、そこにクラシックからの影響が色濃いスパニッシュギターが活躍、そして美しい響きを伴った耳当たりの良い木管と、やはりロマンティックで耳に心地良いよく歌うピアノが絡んで、時にボレロのリズムであったり、ネイティヴ・アメリカンの音楽であったり、インドへ行ってしまったりしながら、それでいて全体を中東の音楽のようなオリエンタルな質感が包み込み、全編ほぼインストゥルメンタルで確かにこの音楽はヒップであるという事以外全く何だかわからないうちに終わってしまう…。
その何だかわからなさを受容出来る暇な時間と探求心ある者だけに、繰り返し繰り返し聴き込んでいくと全く何も考えていないようで本当は緻密に構築された音楽の全貌が明らかになっていくことでしょう。こうした音楽の“形態”は3rd『Gestalt』になるといよいよ明確で、アンダーグラウンドでありヘヴィーなハードロックから明らかに独立して存在する流麗で独自の音色を紡ぐスパニッシュギター、やはり孤高を行く破天荒なヴォーカル、…曇天の空、雲の切れ間から差す溢れる光のシャワーのようなEnchantedな歌うサキソフォーンが奏でるメランコリックなtheme、全編に漂うアンビエントな浮遊感… ともすると無意味な音の羅列を伴う凡庸なハードロックとして聞き流してしまうかもしれないところですが、きっと英国の霧深い森の奥深く…あの、宮殿の重い扉を開けて未知なる暗黒の世界へと手探りで入って行った音楽の子供達なら、必ず、その素晴らしさがわかることでしょう。それはブレーメンの音楽隊の様にプログレッシヴの子供達の心を捕らえて離さない音楽の魔法…。
その魔力は後継プロジェクトであるUppへと確実に受け継がれています。75年の1stはジェフ・ベックのプロデュースによるフュージョン・ファンクでClarkのソウルフルなヴォーカルは好き嫌いの別れるところでしょうがベック印の一流のロックアルバムに仕上がっており、幅広く多くの音楽ファンにアピールする内容となっています。そして、やはり良く聴き込んでいくと、この人達特有の緻密な構造美が露わになることでしょう。
翌76年の2nd『this way』では、よりバラエティーに富んだ内容となりプログレッシヴ・ファンク・ブルースからフュージョン系のインスト・ナンバーまで再びジェフ・ベックを客演に迎えながら聴き応えのある作品に仕上がっています。
アルバム毎に異なる音楽性…全く我が道を往く音楽の様で実は時代の流行を本人達は強く意識して楽曲に取り入れていた故なのでしょうが、思いつくままに様々なアイディアをギュウギュウに詰め込んだ結果、すっかり時の流れから切り離された普遍性の強い独創的な音楽になってしまったのでしょうか。
然し、特にHutchinsonの奔放なギター・プレイが鍵となるClark Hutchinsonの作品群のいずれかは、決して万人にアピールするものではないですが、何人かの音楽ファンにとっては、音楽の世界観を変えてしまうような衝撃的な作用をもたらす程の唯一無比の音楽力を秘めた作品であると言ってよいと思います。

2008年05月31日

PICK UP ARTIST〜原田知世

昨年末に5年振りの新譜『music & me』がオリコン26位にランクインし相変わらず代官山町?辺りではお洒落な“ありふれていないJ-pop”シンガーとしての地位を確立している原田知世。『時をかける少女』『私をスキーに連れてって』と日本の映画史に輝くメガヒット作に主演、その後も良質な映画だけに出演する女優としてimageを保ち、現在も毎日ブレンディのTV-CMでお茶の間にさり気なく浸透するなど世代を超えた抜群の知名度を誇りながら、バラエティーやワイドショーには全く登場しないことで現代では最早存在が不可能になりつつある、昔ながらのnobleな映画女優というポジションを容易く手に入れている稀有な存在の彼女。 その音楽活動は、パトリック・キャンベル・ライオンズのニルヴァーナ級の良質で最高にお洒落なポップ・ロック作品を永年に渡って連発し続けており、常に高い評価を得ています。然し、97年にトーレ・ヨハンソンら北欧のスタッフを迎えたアルバム『Flowers』がオリコン5位、『I could be free』が同10位を記録するなど好セールスを得ているにも拘わらず、原田
知世の知名度が高いにも拘わらず、作品のquality、そして評価が非常に高いにも拘わらず、歌手『原田知世』としての活動が余り一般に浸透してはいない点が、またより一層コアな音楽ファンのマニアックな心理をくすぐっているとも言えるでしょう。
原田知世の作品は恐るべきことに駄作が存在しない事もあり新たに彼女の音楽を“発見”し、その魅力に取り憑かれた若い音楽ファンが原田知世作品のコンプリートを目指すというケースも多いわけですが…やはり初期作品はオリジナルLPで手に入れておきたいものです。
残念ながらCDをラジカセやミニコンポで聴くというレベルでは、歌詞、メロディー、リズムを辛うじて判別出来るくらいにしか音楽は鳴ってくれず、結果的に興味の対象は歌詞、メロディー、リズムの違いのみに限定されてしまい良質の音楽作品の持つquality、moodは伝えることが出来ません。それは良質の音楽と、そうでないものとの区別がつかず、本当に大切な良い音楽との出逢いを恐ろしく遠回りなものにしてしまうでしょう。
やはり、良い音楽と向き合う為には最低限必要なレベルのオーディオシステムを手に入れる事が不可欠であります。部屋にレコード・プレイヤーを置く為のスペースを見つける事は、おのずとアンプやスピーカーのいるべき場所を見つけるきっかけとなり、デスクやクローゼットの上に無造作に置かれたラジカセやミニコンポとは違って、部屋の中で音楽が主役となって必ず、心を満たしてくれることになるのです。
そうした音楽のある生活に原田知世は欠かすことの出来ない空気のような存在であると言い切ってしまったとしても、決して過言ではないと賛同して頂ける音楽ファンが多くいらっしゃることと思います。
原田知世というシンガーが際立って他と決定的に異なるのは、やはりその素晴らしい声質であることは間違いありませんが、大歌手と呼ばれる人達に共通することですが、やはりファーストアルバムというのはその歌手の声が最も魅力的なありのままの状態でpackageされていると思って間違いないでしょう。
原田知世『バースデイ・アルバム』(東芝EASTWORLD WTP-40188)ではその鈴の音のような“声”の再生に注力して頂きたい。この“声”が余裕をもってカッティングされた五曲入りLPの価値を決定づけていると言えます。
映画のサントラ的なimageを持たせたアルバムであり、アレンジもアイドル歌謡とは明らかに一線を画したニルヴァーナライクなポップな作品はユーミンの曲が大半を占めていますが、それ程歌が上手くはないし声も可愛くはないユーミン本人の歌唱がinnocentな曲の魅力と明らかにミスマッチであるのに対し、中学を卒業したばかりの少女がおそらくユーミン歌唱のデモテープを頼りに音程が不安定になるところまでそっくりに歌ったにも拘わらず、余りにも曲とシンガーがフィットしている為、原田知世の「時をかける少女」「守ってあげたい」を聴いたあとにユーミンのそれを聴くとその違和感と耳心地の悪さに愕然とすることになります。ユーミンの曲のimage通りのシンガーであることは後の『私をスキーに連れてって』の主演時に原田知世自身の提言により主題歌にユーミン曲(ユーミン本人歌唱)が採用され映画のimageが固まったというエピソードからも伺えますが、ユーミンと原田知世のコラボであるこの作品はぴったりハマっていると思います。大貫妙子作の「地下鉄のザジ」も秀逸。大貫作品もその後のアルバムで多く採用されており歌手・原
田知世のimage構築の重要な要素となっていきます。このように当初から一貫したimage戦略が用いられていたことが良質な音楽作品を生み出し続けていく要因になっていると思われます。
一年後、やはりバースデイに発売されたセカンドアルバム『撫子純情』(ソニーKADOKAWA 18AH2002)は坂本龍一のプロデュースにより大貫妙子、橿渕哲郎、白井貴子、南佳孝らが曲を提供。やや平凡かと思えるようなポップな曲でも音は低域がしっかりした重たいアレンジ。この頃の原田知世は音程に安定感があるものの間違っても熱唱するタイプではなくTV等の音声では声質の良さも余り伝わらず、またデビュー当初に出演した歌番組で緊張したのか音程を外してしまい一般的に力量のあるシンガーであるとは思われていなかったようですが、彼女の声は際立った通りの良さがあり、このレコードでは重たいアレンジに埋もれてしまうことなく可憐なヴォーカルが粒立ちも良くしっかりと存在感を示しています。これはヴォーカリストとして最も重要な素質であり多彩なアレンジに対応出来る可能性を示しています。
ラジカセやミニコンポ、TVの貧弱な音声ではプログレッシヴなハードロックからアコースティックでクラシカルなバラードまで多彩な楽曲を自在に制御し日本を代表する歌手である女王浜崎あゆみも凡百のJ-pop歌手もそれらしく歌っていれば大差無く聴こえてしまいますが、本格的なオーディオ装置で再生し声の正確な質感、唇の動き、各楽器パートに対するヴォーカルパートの存在感、音楽を作り上げいくスタッフの静かな熱気までも含めたスタジオの空気感全てが露わになった場合、本物とそうでないものとの差に初めて愕然とするわけです。美空ひばり、浜崎あゆみという本物から、フェイクのimitationなものまでが玉石混淆となっているこの国のシーンに於いて売れる売れないに拘わらず違いがわかる音楽ファンに向けた作品を作っていこうという90年代以降の原田知世のアルバムに共通する音楽と向き合う姿勢の萌芽をこの六曲入りのミニアルバムから発見出来るでしょう。
大ヒットシングル「天国に一番近い島」も林哲治作曲、荻田光雄編曲により当然アイドルポップの枠には入りきらない佳作となっています。
翌85年のバースデイ・アルバムである『パヴァーヌ』(ソニーKADOKAWA 28AH2008)では荻田光雄アレンジのWater Sideと井上鑑アレンジのLight SideにLPの両面を振り分けたコンセプトアルバム。作曲陣は橿渕、大貫、中崎英也(!)、加藤和彦、伊藤銀次、REIMY、大沢誉志幸ら…。Water Sideのアレンジは瑞々しいアコースティック感と幻想的なプログレ色を感じさせますが、中でも原田知世の声質を生かした「紅茶派」は日本のプログレッシヴ・フォークロックの傑作。続けてシングルver.よりやや格調高くシンフォニックにアレンジされた「早春物語」に切り替わる辺りの展開はベガーズオペラ『Pathfinder』の「Hobo」から切り替わって「Macarthur」のイントロが始まる辺りの感動に匹敵しうる息を呑む結構な聴き処。スタッフもそして原田知世自身もまた、この傑作と思しき楽曲に対する満足感が更なる良質のポップ音楽を追求していく原動力に繋がっていったように思われます。
このアルバムまでは女優が本業でありシングルリリースも映画に連動したものでしたが翌年以降、歌手としての活動に重点を置くことになるわけですが、原田知世も含め82年に大量にデビューした松田聖子フォロワーのアイドル達が、そろそろ可愛いだけでは続けていけない時期に差しかかったこと、サウンドを売りにした本格志向のアイドルグループ少女隊の出現(現代に続くアキバ文化、通を自認するアイドルヲタの志向性に着火した点、アジアに進出しJ-popの橋頭堡を築いた点、そしてサウンド自体が90年代のフィーメル・ポップ・ロックに多大な影響を与えた点等、このグループはJ-popの歴史上最重要)によりアーティスト宣言するアイドルも登場し、元々アイドル歌謡の範疇にない原田知世は更に音楽性をシフトすることになります。
それは、少なくともそれまで日本の狭い狭いメジャーシーンに存在したブルース色の濃いハードロックとは異なり、クールでシリアスな質感を持ったプログレッシヴ・ロックナンバー「雨のプラネタリウム」であり、あの《時をかける少女・原田知世》がシングルリリースしてTVで歌う衝撃の映像としてお茶の間でポテチでも食べながら何の緊張感もなくテレビを見ていた一部の音楽ファンのアンテナを強く揺さぶってしまう事になったのです。
《続く》

プログレッシヴ・ロックのファンの皆様方は非常に真剣に音楽と向き合っておられる方々が多いと聞きます。この文章は最近よく使われる比喩に例えたならば近所のコンビニにカップラーメンを買いに行く時と同じレベルの緊張感で書かれております。毎日眉間に皺を寄せて音楽と対峙していらっしゃいますときっと体に毒ですよ。是非リラックスして原田知世さんを聴きましょう。原田知世のある音楽生活は、速やかに部屋の隅々に浸透しあなたの心を穏やかに鎮めてくれることでしょう。

2008年06月30日

原田知世・完結編〜特選・日本の女性ヴォーカル編

毎日憂鬱な梅雨が明ければ、いよいよ酷暑の夏本番。こんな季節には清々しくて透明感のある音楽、美しい女性ヴォーカルなど聴いて過ごしたいもの。日本の音楽ファンの間でも例えば英国プログレ・フォークロックの三美神やイタリアのDonella Del MonacoスペインのMaria Del Mar Bonetなど、そのお国柄、異国情緒に溢れた女性ヴォーカルが人気を集めてきましたが、最近では同様に海外で日本の女性ヴォーカルが聴かれるケースが増えているようです。日本には昔から女性ヴォーカルのファンが多く存在し、そうしたニーズに応えるべくジャンルを問わず質の高いヴォーカル作品が作られてきました。特に70年代後半以降は世界的に見て日本のレコード製造技術は群を抜いており高音質のLPで美しい歌声を堪能出来る点は見逃せません。CDの音がどんなに良くなろうともヴォーカルの再現は容易では無く、LPで、カートリッジやシステムとの相性を確かめながら、良く調整された装置で聴く女性ヴォーカルは鳥肌が立つ程、美しいものです。ここでは、そんな日本の女性ヴォーカルの中から、この夏を快適に過ごせるような優れたアルバムをい
くつかご案内していきたいと思います。まずは、前回紹介仕切れなかった原田知世のLP時代後期の三枚とベスト盤から。
☆『next door』
次作程ではないが曲によりユーロ調のロックテイストを強めていった作品。原田知世の声質の美点は透明感があり圧倒的な通りの良さを持っていることだろう。その為、シャウトすることもなくクールに落ち着いて歌っても派手なアレンジにかき消されることは無い。日本の女性ロック・ヴォーカルの多くはソウルフルに叫ぶか、あるいはパワーポップと開き直ってgirlyにコケティッシュに歌うタイプであるのに対し浜崎あゆみと共に白いロックをシリアスに歌う数少ないJ-ROCKシンガーである。
☆『soshite』
基本的にビートの効いた北欧風ポンプ・ロックにクールなヴォーカルが被さる。B㈪〜㈭の流れは完成度高い。然しこのアルバムの白眉はボーナス12inに収められた「雨のプラネタリウム」別ver.だろう。完璧なプログレッシヴ・ロックに仕上がっている。12EPの音質が良いことは言うまでもない。
☆☆☆『schmatz』
ロンドンでマスタリング、カッティングを行い、より硬質なロック・サウンドに乗せて、しっかりとヴォーカルの存在感を出している。完全にアイドル路線から脱却しており歌唱表現の幅も広がっている。B-㈬の伸びやかな歌声、「彼と彼女のソネット」でキーボードと奏でるハーモニーは神々しいまでに美しい。
☆☆☆『from T』
新録2曲、新曲1曲含むベスト。シングル曲は何れも出来が良くvarietyに富んだ良質のヴォーカル・アルバムとして何時の間にか惹き込まれ心地良く芯まで癒されていく内容。新曲「ブーケの冬」の出来がまた良い。名曲「彼と彼女のソネット」がB面冒頭に配置されレンジが広く一層美しい音で聴ける。
この後90年代以降の原田知世作品のqualityの高さは広く知られる処ですが、特に夏を快適に、ということであればゴンチチとのコラボで瑞々しいアコースティックギターに透明度の高いヴォーカルが浮かぶ究極の癒し系アルバム『summer breeze』、落ち着いた柔らかい空間を淡々と紡いでいく最新作『music & me』は絶対のお薦め。7/2発売の高橋幸宏らと結成した新バンドpupaのアルバムも期待を裏切られることは無いでしょう。
ところで、80年代後半になりますと日本のLP製造技術は頂点を迎えており、高音質化技術の確立していない当時のCDとは音質に雲泥の開きがあり、当時のものをCDで聴いてLPと同様の感動が得られることは絶対にありません。この当時の音源で未だCDでしか聴いたことがないというタイトルがありましたら必ずLPで聴き直してみることをお勧めします。この時期にはCD化の波に埋もれ忘れかけられた名盤も多く存在します。
☆☆五輪真弓『LIVE wintry streets』
73年12月に録音された五輪真弓のライヴ。80年の大ヒット『恋人よ』では完璧な歌唱力を見せつけているが、この頃の彼女の歌唱にはまだ初々しさが残る。日本では妖怪人間ベラと呼ばれてしまったがはっきりした目鼻立ちが外国人には受けるようで海外では歌の上手い美貌のシンガーとしてユーミンや中島みゆきよりも高い評価と人気を得ている。歌手としての才能はその二人に対し圧倒的に勝っており、全てのアルバムが優れたヴォーカル作品として輝きを放っている。
☆やまがたすみこ『summer shade』
透明感溢れる歌声で人気が再燃中の歌謡フォークシンガー76年のアルバム。シンプルなアレンジで低域のヴォリームを抑え中高域の音色の美しさを強調しており爽やかに聴かせる。
☆☆惣領智子『ナウ・アンド・ゼン』
現在は沖縄に在住し歌手活動を続ける惣領智子78年のベスト・アルバム。当時私生活でもパートナーであった惣領泰則による繊細できめ細やかなアレンジに、やはり繊細でやさしく時に伸びのあるヴォーカルが心地良く溶け込む。「やさしく愛して」では小鳥が歌う瑞々しい田園の情景を美しく描き出している。
☆☆☆☆久保田早紀『saudade』
キリスト教音楽家久米沙百合の久保田早紀時代80年の作。A面はポルトガルで現地ミュージシャンを起用した録音。何処までも柔らかい音色を紡ぎ出しメランコリックな響きをたっぷりと歌うギターラ・ポルチュゲーサ、ヴィオラをバックに澄み切った美しい声で歌われる「異邦人」には神秘性が宿り思わずも涙が。B面のアレンジも検討しているのだが所詮ニューミュージックであり完全な蛇足。A面が余りにも素晴らしい。心に響き祈り続ける音楽。
◇ナチコ『薬屋の娘/Nachiko-1st』
プログレテイストの作品として昔から知られた舘岡奈智子80年のファースト。13分に及ぶ大曲「水の炎」ではドラマティックな盛り上がりを見せる。
☆白井貴子『I love love』
NHK番組のリポーター等を務め近年クレイジー・ボーイズを再結成し活動中の白井貴子ソロ時代82年のセカンドアルバム。佐野元春の「someday」のカヴァーを始め所謂シティー・ポップスでアイドル歌謡とは一線を画した内容で歌も上手いが、予想外に歌声は可愛い。後に結成するクレイジー・ボーイズはロックバンドとされるが、ハードな路線ではなく同様に可愛いらしいポップなヴォーカルを聴かせる。
◇山下久美子『抱きしめてオンリィ・ユー』
ライヴの女王と言われたイメージからロック色の強さを期待すると完全な肩透かしを食らう。初期作品は何れもロックンロール調の曲を当時流行のシティー・ポップスに仕立てハスキーでキュートなヴォーカルを乗せる。時に小悪魔的。50'S的な懐かしい曲調が独自のいなたい世界を作っている。82年作。次作『baby baby』は少しNW調になる。
☆山崎ハコ『てっせんの花』
尺八を想わせるフルート、マンドリン、オカリナ等アコースティック楽器を効果的に配しオリエンタルなムードを醸し出しつつ、演歌とはまた一つ違った情念の世界を作り出している。今年待望の新曲「BEETLE」も出た山崎ハコ84年の作品。
☆☆☆少女隊『untouchable』
86年作。分厚い北欧風ポンプサウンドをambienceなコーラスが包む。アッパーなガールズ・ポップだが浮ついた部分は皆無。地に足が着いている。麗子がソロをとるA-㈪ウィスパーヴォイスの美しさは筆舌に尽くし難い。奥行きと天井方向に大きく伸びたステレオ感。中低域のしっかり感。モノトーンだが豊かな音色。丁寧に音楽を作り込んでいるのが誰にでもわかる。ハイエンド・オーディオで音量を上げて聴く価値がある。正に90年代以降のJ-popの教科書となったサウンドだが音楽的に少女隊を超えたモノはその後現れていない。アジアツアーを成功させJ-popが海外へ進出する基礎を創った。少女隊のJP-Originalは数多く海外へ流出しており初期タイトルのCDに5桁のプレミアがついているのは周知の通り。
◇冴木杏奈『tango primavera』
世界的な活躍をしているタンゴ歌手冴木杏奈87年のデビュー作。全楽曲日本人ライターによるもので、それまでにも日本によくあった歌謡タンゴの世界。
☆☆風見律子『nouvelles』
透明感ある心地良いヴォーカルを聴かせてくれる風見律子87年作。中央アジアの高原をイメージさせる爽快なフュージョンポップ。
☆☆☆☆浅川マキ『灯ともし頃』
アンダーグラウンドなジャズ、ロック、アヴァンギャルドな音楽を常に一流のメンツを揃えてずっと進化し続ける作品を残している浅川マキ。特に80年代レコードの売れない時代に年に1〜2枚ペースで量産した傑作群は採算が合っていただろうか。良い音楽を世に送り出したいという日本のレコード会社として最後の“粋”を感じる。76年の本作では白井幹夫、坂本龍一、吉田建、つのだ☆ひろ、近藤俊則ら気鋭の演奏陣をバックに夕暮れの情景をしっとりと歌う。冬に録られたアルバムだが夏の夜を沁み沁み過ごすにはうってつけだ。非黒人で然も日本語で、こんなにブルースを歌える人はいない。或る夜、グラス片手にこんなレコードを聴きながら、苦くて切ない記憶を思い出してみるなんて…きっと悪くはない。一人の寂しい夜、マキの歌声は何よりやさしい。
☆☆☆☆カルメンマキ&OZ『㈽』
日本のロックヴォーカリストとして未だに頂点に君臨し他の追随を許さないマキの素晴らしいヴォーカルをLPで堪能したいなら間違いなく77年のこのアルバムだろう。ロックを歌うとはどういう事か?本物とは何か?を近年のフェイクのモノしか知らない日本の若者にこそよく聴いてほしい。マキOZの作品としては曇った夏の空を感じさせプログレ色も硬質感も若干後退しヴォーカルを聴かせるアレンジになってはいるが、それでも随所に聴くべきプレイが挿入される。暗鬱なメロトロンも聞き逃すことは出来ない。

夏の夜、柔らかい美声のカートリッジに付け替えて優しいフィーメルヴォーカルに身を委ねてみるのは如何でしょう。世界中から選りすぐりの女性ヴォーカルも併せて御案内しております。店頭にて是非、美貌のジャケットと美しい歌声をお確かめ下さい。

2008年08月10日

日本ヴァーティゴレコード その壱

世界的な和モノブームが、いよいよ日本に上陸か?そんな様相になってきました。
日本のロックは世界に相手にされない。私達は永年そんなコンプレックスに苛まれてきましたが、今や世界的に注目されているのが「Sukiyaki」世代以降、昭和ニッポンの…ロック?
マニアックな海外のロックファンにとって日本文化は明らかに異質であり、それはそれはイカレたありえない世界。妙に欧米化した最近のJポップに比べ東洋の神秘全開のロックの・ようなものは、例えば私達が普通の英国人は聴かないようなマイナーな英国ロックを愛でるように…日本のコアなロックファンである私達すら、聞いたことのないようなマニアックな和モノポップを追い求める海外の音楽ファンを急増させています。
以前あるレコード店主が「日本のレコードの良さがわかっていないのは日本人だけだ」と仰っていましたが、和モノレア盤が大量に買い付けられ海外に流出する状況の中、漸く保守的なロックファンの中にも和モノを見直す動きが出てきました。
その中でも、絶えず海外のロックファンから常に注目を集めてきたのは、世界最高音質の日本ビクタープレスによる日本で唯一レーベルカラーを全面に押しだした異邦マニア垂涎のプログレッシブレーベル、日本ヴァーティゴレコードでしょう。
意外と英国ヴァーティゴのタイトルはスラスラ言える人でも日本ヴァーティゴの僅か約20タイトルを思い出せる人は少ないようです。
英国、そして世界のプログレに慣れ親しんだ耳にとっても実際日本ヴァーティゴのタイトルは充分な訴求力を持っています。初めて聴くプログレ人は「こんなにマトモなロックのアルバムが日本にもあったのか」と驚くことでしょう。80年代の日本人プログレが生理的に受け付けない人でも「日本人でも、やれば出来るんだ」と感心することと思います。
実は当時も極めて保守的な本邦の洋楽ロックファンは日本人ロックを馬鹿にしており日本人ロックの市場は非常に狭かったわけですが、その中でフライドエッグやスペースバンドは最も高い人気を誇っていました。その後もマキOZやRCが世間一般の評価とは別に日本の王道ロックファンから高い支持を受けていくわけですが、歴史が何処でねじ曲がったのかフライドエッグやスペースバンドを支持した日本の王道ロックファンからは、ポップ、フォークとして全く相手にされなかったハッピーなんとかが日本のロックの祖という評価が定着してしまったことは多くの洋楽ロックファン、若い日本のロックファンにとって本当に良い昔の日本のロックとの出逢いを妨げる大きな障害となっています。
ここで、はっきりと言っておきますが、日本にロックを根付かせたのは、ハッピーなんとかでもミカなんとかでも絶対にありません。日本にロックを広めていったのはジュリーとかまやつとつのだ☆ひろです。そして海外に日本最高のS.S.W.としてその名を今も轟かす孤高のblind singer長谷川きよしを忘れてはいけません。
日本ヴァーティゴレコードより渦巻きレーベルで発売された邦楽アルバムで確認されているものは19枚、その他オムニバスが1枚、そしておそらくスペースシップのみで発売されたかまやつとつのだ☆ひろのベスト盤が1枚づつ存在します。日本ヴァーティゴではおそらく75年初めまで渦巻きが使われており、その後短期間だけスペースシップが採用されたのち同年夏から邦楽アルバムに関しては順次フィリップスレーベルに移行しています。その為、渦巻きよりスペースシップがレアと思われますが渦巻きで出たタイトルの後期プレスにスペースシップ版が存在するかは定かではありません。
当時日本フォノグラムではダブルジャケットの内側に歌詞を印刷もしくは別に歌詞カードを添付する装丁を多く採用していましたが、オイルショック時期の一時的コスト対策としてシングルジャケに変更しジャケ裏に歌詞を印刷する簡易な装丁を採用します。その為、ダブルジャケとシングルジャケが両方存在するタイトルがあります。また価格変更に伴いレーベルの移行、品番の変更が頻繁に行われており全容を把握することが非常に困難になっています。
そして帯ですが初期は被せタイプの為、帯付きはレアであり帯に切り込みをいれないとジャケットを見開き出来ない為帯美品は激レアとなります。後期タイトルは普通の帯が付いています。
また、邦楽シングルも20タイトル前後存在しますが初期のプレスはセンター穴がそのままアダプター無しで再生出来、センター部分を折り取ればドーナツ盤となる仕様となっています。カンパニースリーヴは初期が青、後期がピンクになります。
そしてFX3004長谷川きよしFX3010つのだ☆ひろの4曲入り7インチLPが存在しますが、このセンターラベル(渦巻き面)にEP用を(誤って?)使用したモノとLP用を使用したモノとがあります。
日本ヴァーティゴレコード邦楽アルバム最初のタイトルは72年5月リリースの長谷川きよし『いにしえ坂』であり規格品番はFX8600番台がヴァーティゴの邦楽アルバム専用に充てられています。

FX8601 長谷川きよし『いにしえ坂』

日本ビクター時代よりフィリップスレーベルの花形看板アーティストであった長谷川きよしは確かな腕前のラテンギターを弾きジャズボッサなフレーバーに満ちたバッキングを従え高い歌唱力で自作からカヴァー、独自解釈のトラッドまでセンス抜群の選曲でオリジナリティ溢れる世界を歌う。日本フォノグラムがビクターから独立してからは、いよいよ金看板としての比重が高まっている。
日本フォノグラムでは当初フィリップスレーベルを中心に展開し他にフォンタナ、マーキュリーを細々リリースしていた。英国でヴァーティゴからリリースされた作品のうちグレイヴィトレイン、メイブリッツ、チャプタースリーなど70年以前のタイトルの日本盤はフィリップスレーベルで出ている。ようやく71年頃からブラックサバス、マグナカルタあたりが日本でも渦巻きレーベルのヴァーティゴレコードからリリースされるようになったが、そのリリースは極めて細々としたものであり現在では英国オリジナル以上にレアアイテム化して帯付き美品に英オリの数倍のプレミアムがついたタイトルもあるほど。何より日本が世界に誇る日本ビクタープレスであり音質面で英オリと遜色ないレベルに仕上がっていることも米国プレスヴァーティゴと並んで近年世界のオーディオファイルの注目を集める要因となっている。
72年に入って日本でもクリムゾン、イエス、ELP中心に英国プログレッシヴのムーヴメントが起こると日本フォノグラムでもヴァーティゴというレーベルの実験的指向に注目する。渦巻きヴァーティゴのレコードは世界中ありとあらゆる国で独自にリリースされたが日本ほど自国アーティスト中心に展開した例はなく、特に実験的作品が多く並んでいる点では正にプログレッシブ(ヴではない)レーベルの日本ヴァーティゴレコードと言えるだろう。
そしてヴァーティゴというレーベルを大々的に売り出す為に白羽の矢が立ったのは日本フォノグラムの大看板長谷川きよしであった。アルバムのみならず日本ヴァーティゴの第一弾シングルも長谷川きよしの「黒の舟唄」(ヴァーティゴFX−1)であり、レコード会社の期待を一身に背負っている。
『いにしえ坂』は長谷川きよしの5枚目のアルバム。それまでボサノバ、ラウンジ或いはビッグバンドジャズといった洒落たジャジーな雰囲気の音楽を得意としてきた長谷川きよしだが、ここではレーベルカラーを強く意識したアレンジを前面に押し出している。たおやかなフォークロック調の「かなしい兵隊」は6分を超える曲だがベースとギターが優しく淡々と紡いでいくメロディーに鍵盤の美しい音色が絡み静かに聴き手を引き込んでいく。その流れのまま少しポップな「コーヒーショップ」を挟んで無国籍ラテンギターがお洒落空間を描く「秋だから」、映画音楽のようなストリングスをバックにしたニルヴァーナライクなソフトロック「椅子」、ギターの音色が珠玉のメランコリックな口笛も聴ける「ティ・タイム」からパブロック調英語カヴァー「SEEMS LIkE A LONG TIME」までA面は英国SSWライクな端正かつ淡麗でありながら陰翳を充分に帯びた上質のロックに仕上がっている。
ここまででも充分な出来なのだが、海外のプログレッシヴロックファンに圧倒的な訴求力を持つのはプログレッシヴロック作品として出色の出来栄えを示すB面の素晴らしい完成度だろう。
重厚かつ陰鬱なオリエンタルムード全開の混沌としたイントロに導かれる「ダリオ ダリオ」はイラン歌謡のメランコリックな旋律が非常に印象的。続く「ハイウェイ」も玉木宏樹のエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーしサマルカンドあたりのシルクロードを彷徨う駱駝乗り達の行程とキャラバン隊を見送る人達の日常的な大地の祈りの情景を描き出す。
イーストオブエデンの初期作品に代表されるように東洋に対する憧憬と畏怖の念はこの時代の英国プログレッシヴに多々見られるが、大月氏からペルシアへと繋がる中央アジアの沙漠を行き交った人達の血が日本人にも流れているのであろうが、ここでこうした音楽に表現される祈りのリアリティは英国人のそれを超えている。例えばクラーク・ハッチンソンのような高度にパッケージされた箱庭的オリエンタリズムの魅力も捨てがたいが。
キリスト教やイスラーム、仏教といったゾロアスター以降の宗教が持つ観念的なものでなく哲学や儒学の影響にも晒されていない原始的な祈りの記憶は地中海から中央アジア、そして日本では脈々と受け継がれていて、時折それは現代のポップ音楽の中にも突然神が降りたように再現される。
実際には当地でも特異とされるマリー・デル・マー・ボネットやマドレデウスに通底するような確かに人々の血液に流れる悠久の記憶を呼び覚ます音楽。ブラインド・シンガー長谷川きよしが幸運にも彼の音楽に出逢うことの出来た世界中の音楽ファンにこよなく愛される理由の一つだろう。
そのリアルな祈りの情念はトラッド曲「Black is the colour of my true love's hair」に沈々とシリアスに歌い込まれる。英語で歌われるこの曲、当時の日本にはネイティヴな発音という概念はないが、世界中の心ある音楽ファンなら誰でも些事に囚われずに胸に響くだろう。
日本ヴァーティゴレコードのアルバム第一弾としてレコード会社の入れ込みも強力であったことも十二分に伝わってくるが尺八をフィーチャーした終曲「古坂」を聴けば、当時国内の音楽事情では『宮殿』すら二年遅れで上陸するような右も左もわからない状況の中、未知の領域へ手探りで入っていった大和男達が、この時点でプログレッシヴロックを完璧にモノにしていたことがわかる。
その後多くの日本人プログレと云われる音楽が、ただ表層的な形態模写と自己満足に過ぎない技巧の表現に終始し余りにもコンパクト化した狭い次元の活動に陥っていったのは本当に残念でならない。
ただ、未だに日本人の作品というだけで日本ヴァーティゴレコードのタイトルに食指を動かす事を躊躇っているプログレ人には是非、先ずこのタイトルを聴いて頂きたい。日本ヴァーティゴのアルバム群は然程レアではなかったタイトルも含めて年々海外へ流出しており入手が難しくなっている。何故これまで漠然と日本でプログレッシヴロックという特異な音楽ジャンルが好まれてきたか。洋楽と邦楽を隔つ壁に阻まれ近年国内では過小評価されてきたフォークと一括りにされてしまった時代にあった良質のジャパニーズロックを知ることで、日本にプログレッシヴロックがしっかりと根を下ろしていった原点を再度確認してほしい。プログレの形態に囚われず、表層的な音楽ジャンルを超えてまだ出逢っていない本物のプログレッシヴロックを見つける大きなきっかけになるだろう。

2017年08月25日

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